「ゆらぎ」について
2017年5月、中国の囲碁チャンピオンを米Google者のAIアルファ碁が破った___
この手のニュースを目にするたび、敗北感に苛まれるのはわたしだけでしょうか。
自らが生み出した科学技術の進歩の前に 人間の能力は屈するしかないのか…と。
でも、こういう見方はどうでしょう。
その対局中にアルファ碁が消費したエネルギーを知っていますか?
人間(囲碁チャンピオン)の脳の消費エネルギーは、思考時で21ワット。
一方、アルファ碁の消費電力は25万ワットだそうです。(日本経済新聞,2107.7.27)
単純計算で、約1万2千人分。
しかも脳は睡眠時も20ワットを代謝に使っており、どんなに脳みそフル回転しても1ワットしか増えないとか。
これは、対局では敗れたものの、生物の脳の持つシステムと人工機械とは決定的に違う仕組みが働いていることを示唆するデータです。
では人間の脳とAIとを機械的に比べてみたなら、さぞかし人間の脳には性能の良い部品が使われているのだろう、と考えたくなりますが、答えはノー。
コンピューターの素子と神経細胞とでは、計算速度も、間違える確率も、ケタ違いの差でコンピューターの圧勝。記憶容量に至っては、アインシュタイン級の天才を持ってしても せいぜい200円のDVDにして2枚分だし、カメラに保存された写真と違って私たちの映像記憶の正確さは、変化盲という現象のために微妙なズレを見分けられないという欠陥があるのです。
では、こんなに粗末な部品で、しかも1万分の1のエネルギー量で、どうやって脳はAIと互角に戦うことができるでしょうか。
その謎を解き明かすべく研究をされている方がいます。
大阪大学大学院生命機能研究科特任教授で生物物理学者の柳田敏雄さんです。
柳田さんは、『生体内の分子を観る』という手法で、数々の生命現象の新事実を解明されました。
その一つは、筋収縮時のミオシン分子の研究です。
筋収縮は、筋節(サルコメア)というユニットのなかのアクチンとミオシンという2種のたんぱく質繊維が滑り合うことで起きることが知られています。柳田さんはその「滑り」のとき実際に何がおきているのかミクロレベルで観ることに はじめて成功されました。
アクチンフィラメントとミオシンフィラメントは、虫が蠢くように止まることなく動いていたそうです。
自動車のような人工機会はスイッチのオン/オフ時で差がない ということは考えられません。
ところが生体分子は常に動いているので、休んでいる時と動いている時の差がほんの僅か。
それを観た柳田さんは「これは『ゆらぎ』だ!」と思ったそうです。
さらにミオシン分子一つに注目し試行錯誤の末に観察できたことは、ミオシンがアクチンの上を5.3nmの歩幅で跳ねるように進んでいるということ。その動きは、常に前進するのでなくフラフラと前に後ろにたゆたいながら前に進むという具合でした。しかもATPのエネルギーを使わず、ブラウン運動によってゆらいでいたのです。ブラウン運動は、機械にとっては邪魔でしかないノイズです。生体は、これを巧みに利用していたのです。
私たちの筋肉はノイズで動いている。
さらに、細胞には化学物質の濃度勾配や電位勾配に従って移動する走化性や走電性があります。
細胞はノイズの数分の一という非常に小さな「勾配」というシグナルも検出しているのです。
柳田さんは、脳神経細胞も情報処理やひらめきに『ゆらぎ』を利用している根拠もつきとめます。
脳は認知の際、様々な神経細胞の集まり単位(コラム)を賦活化させる中で、整合するものをゆらぎながら探しているというのです。(この整合が起こった時、「これだ!」とひらめくのですね。隠し絵が何を示しているかわかる瞬間なんかもこれが起こっているのです。)
生物は何もしなくても存在する『ゆらぎ』を巧みに利用することで、小さなエネルギーで効率よく働くことができる仕組みを持っていることがわかりました。
『ゆらぎ』を使った働きは不確かで曖昧です。
しかしその曖昧さをもうまく使うことで、生物特有の自律性や柔軟性を発揮できているのです。
生命は機械ではない
〜生命現象は『ゆらぎ』で成っている
またひとつ、機械論的に生命を捉えることがいかにナンセンスであるか
という根拠に出合いました。
科学的な視点から、ホリスティックにそして哲学的に「生命とは何か」を考えることにとても興味があります。
科学をツールにすることで、説明したり納得したりがしやすくなります。
だけれども、科学・機械的に世界の全てが成り立っているわけではありません。
またおもしろい真実に出合ったら紹介していきます。
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