樟脳の香りが教えてくれる歴史

少し前にInstagramにも写真を投稿しましたが、私はモクレンの花が大好きです。

コブシもそう。

春の訪れを告げてくれる花。

木の枝に直接大ぶりの花をつけるのが本当に美しいし、

わたしは寒い冬が苦手なので、

春を待ちわびている頃(桜よりだいぶ前。早ければ2月の末頃)に蕾が膨らみ始めるこの花に

「春まであともう一息」と励まされるのです。

モクレン(Magnolia denudata)


そのモクレン科の樹木の葉を揉むと、クスノキに似た精油の良い香りがします。

花はクスノキとは随分違うのに、不思議ですね。


先日の記事の、植物分類体系の系統樹をみてみると、その歴史を紐解くことができます。


こちらの図は下記『新しい植物分類体系』から抜粋(一部改変)いたしました。

左上から右下に引かれた斜めの線が進化の根幹です。

左上の原始的な基部被子植物からスタートして、右下に行くに従って時代とともに様々な植物目が分岐してきました。


最右に上から下まで列になって書かれている目(またはまとまった類)が現生植物の分類です。

右の上から5つ目にモクレン類があります。三角に塗りつぶされているのは多数を含む群ということ。


このモクレン類に{モクレン目・クスノキ目・コショウ目・カネラ目}が含まれます。

これらのモクレン類を構成する植物・花の形態は違っても、すべて共通して精油を合成します。


なぜか。


これらの植物は初期の被子植物として、昆虫を送粉者として利用し始めました。

しかし、現在のチョウやハチは一億年前にはまだ存在せず、もっぱら甲虫類を相手にせざるを得なかったのです。

そして花にやってくる甲虫類は立派な顎を持ち、花粉を運ぶだけでなく植物体そのものを食べてしまうことが多かったのですね。

食害回避のために、精油を生産する必要があった、というわけです。


防虫剤として使われる樟脳がクスノキから採れること

コショウに防腐作用や防虫効果があること の理由が、ここにあります。

一億年前に植物と昆虫が密接な関係を結び始めた頃の歴史を、精油が教えてくれているのです。


ショウノウノキ(Cinnamomum camphora)


参考文献