チェストツリーは何科??(植物の分類体系について)
3月のセミナーのテーマは【女性ホルモンへのアプローチ】でした。
その際にピックアップして数件の論文とともにエビデンスを精査したのがヴァイテックス(別名チェストツリー・セイヨウニンジンボク Vitex agnus-castus)という植物の精油です。
しかしこの植物、資料によって「クマツヅラ科」とされているものが多い中「シソ科」とされているものもあります。どちらが正しいのか、その時はわかりませんでした。
その後調べて、植物分類体系についてわかったのでまとめます。
植物を進化の道筋(系統)に沿って分類していく中で、19世紀から「最も原始的な被子植物は何か?」という疑問に対して、盛んに議論が行われ、さまざまな仮説が立てられてきた。
日本でよく使われてきたのは
『花の構造が単純なものから複雑化していった』という仮説に基づく、ドイツのエングラーによる体系を改定した新エングラー体系と、
『長く伸びた軸の上に萼・花弁・雄しべ・雌しべといった花の器官が多数らせん状に並んでいる花が原始的である(つまり花が茎と葉が変形して生じた、とする考え)』という仮説に基づく、アメリカのクロンキストによるクロンキスト体系である。
これらはいずれも植物の形態による分類体系であった。
しかし1980年代から盛んに行われたDNAの塩基配列情報による被子植物の系統解明の結果として、現生被子植物の進化の歴史の概要がわかってきた。
APG分類体系は、国際プロジェクトである被子植物系統研究グループ(Angiosperm Phylogeny Group)によって新たに構築された分子系統学的解析に基づくように、被子植物の科を編成し直した新分類体系なのである。
APG分類体系は改訂が進められ、2009年に公表されたAPG Ⅲ(スリー)と2015年の改訂版であるAPG Ⅳ(フォー)が現在Wikipediaなどでも採用されている。
APG体系では、従来クマツヅラ科に含まれていたハマゴウ属(Vitex)はシソ科に編成された。
これまでシソ科は草本植物からなるグループであったが、APG体系では草本と木本のグループが入り混じることとなった。
つまり、植物のマクロ的形態から分類していた旧分類体系の新エングラー体系とクロンキスト体系においてはクマツヅラ科に属していたヴァイテックスが、ミクロなDNA解析による新分類であるAPG体系によるとシソ科に属すことになった、ということです。
2~3mもの高さになる木本のヴァイテックスがシソ科だなんて少し変な感じがしますが、必ずしもAPG体系では草本と木本が別のグループになっていないのなら納得です。
植物の進化系統をどう表そうか、と決めているのは人間ですので、どちらが正しいということではないのでしょう。これからも研究が進む中で変わリゆくものですし、どの視点で見るかによっても違っていいものなのですね。
旧分類の方が少数の容易に判断できる特徴に基づいているため、教育などの場面で用いやすいという点や、研究の進展に伴って改訂する必要がないため図鑑類を書き換えないで済む点で、新分類より使いやすいこともあるようです。
一方で、学術先端分野においてはすでにAPG体系に移行しており、エングラーやクロンキストは歴史的体系と位置付けられているのです。
これで、本や資料によって同じ植物でも科名や分類が違っていることの意味がわかりました。
PEOTコースでも植物分類体系について教えていただきましたが、今回自分で本を読んで調べてみて、さらに理解が深まりました。
これからは、どの分類に基づいて書かれているのか注意してみてみると面白いと思います。
参考資料
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